- 歴史的に、生物学の発展には、非職業的研究者や一般の人々が貢献してきた。特に博物学、分類学、生物地理学、生態学などは、純粋に生き物が好きなアマチュア研究者や、地域の生物相を調査するボランティアなどの存在無くしては、ここまでの学問的発展を遂げなかったといっても過言ではない。その理由としては、高価な機器や研究施設がなくても、生き物の観察や採集などといった研究活動が行えるという、その敷居の低さがあげられる。天文学やコンピューターサイエンスでも似たような状況で、どちらの分野でも生物学同様にアマチュアの貢献度が高い。
しかし時代は21 世紀、ライフサイエンス(生命科学)全盛の時代となり、アマチュア生物学者を取り巻く環境は変わった。遺伝子やタンパク質の機能解析など、機器や試薬、設備がなければ出来ない研究が主流になり、アマチュアが入り込む余地がほとんどなくなってしまった。もちろん伝統的な手法によるバイオロジー、特に、人気の高い植物、鳥類、昆虫などの分類、生態、分布情報などは、今でも多くのアマチュアが活躍し、知見の収集が行われているが、都市化や娯楽の増加などによる生物に触れる機会の減少、自然保護の機運の高まりによる採集への厳しい視線、などもあり、昆虫少年が「絶滅危惧種」になるなど、今後の生物学の発展の担い手となる人材不足が懸念されている。それはアマチュア研究者の減少だけでなく、職業的研究者を志す人材の不足ということにも直結しかねない。近年では「ポスドク問題」など自然科学系研究者の就職難も社会問題化しており、特に予算が取りづらい基礎研究の進展が困難になりつつある。
それではこのまま生物学の研究活動は停滞してしまうのか? と悲観的になりそうなところだが、時代の変化によって逆に研究がやりやすくなった側面もある。それは、計算機器の高性能化やネットワークの整備といったコンピューターサイエンスの発展と、研究機器の低価格化だ。それらの要因に伴って、海外ではDIY (Do It Yourself) Biology という新たなムーブメントが発生しており、アマチュア生物学者が生命科学の発展の一端を担おうとしている。
本記事では、そのDIY Biology の現状を紹介し、さらにアマチュア生物学者の今後の展望について考察を行う。
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